運動伝達機構

運動伝達機構

1. 概要

運動伝達機構とは、動力源で発生した運動と動力を、作業部または他の機械要素へ伝達するための機械システムである。

一般的な機械では、モータ、エンジン、シリンダ、または作業者によって発生した力と運動が、作業部へ直接伝達されるとは限らない。入力側と出力側では、位置、方向、速度、トルクおよび配置条件が異なる場合が多いため、必要な条件に合わせて運動を伝える各種伝達機構が使用される。

運動伝達システムの基本的な流れは次のとおりである。

動力源
→ 入力軸
→ 運動伝達要素
→ 出力軸または可動部
→ 作業部

運動伝達機構は、ある運動形式を別の運動形式へ変える運動変換機構と区別する必要がある。

例えば、歯車、ベルト、チェーンおよび軸は、主として回転運動を回転運動のまま伝達する。一方、ボールねじやクランク・スライダ機構は、回転運動を直線運動または往復運動へ変換するため、運動変換機構に分類される。

ただし、ラック・アンド・ピニオンのように、運動伝達と運動変換の両方の機能を持つ機構も存在する。

2. 運動伝達機構の主な機能

運動伝達機構は、単に運動をある位置から別の位置へ伝えるだけではない。実際の機械では、次のような複数の機能を同時に担う。

2.1 異なる位置間での運動伝達

入力軸で発生した運動を、離れた場所にある出力軸または作業部へ伝達する。

代表例は次のとおりである。

  • モータからコンベヤ駆動軸への動力伝達

  • 減速機から切断軸への回転運動伝達

  • 機械下部に配置されたモータから上部駆動部への動力伝達

2.2 速度の変更

入力軸と出力軸の間で回転速度を変更する。

減速比を大きくすると、出力速度は低下し、出力トルクは増加する。反対に、増速機構では出力速度が増加し、出力トルクは減少する。

2.3 トルクの変更

機械的な伝達比を利用して、出力軸に必要なトルクを確保する。

高速・低トルクのモータで低速・高トルクの作業部を駆動する場合、減速機、歯車列、ベルト伝動またはチェーン伝動が使用される。

2.4 回転方向の変更

歯車のかみ合い、交差ベルトの配置、またはかさ歯車などを利用して、出力軸の回転方向を変更できる。

2.5 軸方向の変更

入力軸と出力軸が平行でない場合でも、運動を伝達できる。

代表例は次のとおりである。

  • かさ歯車による直角軸伝達

  • ウォームギヤによる食違い軸伝達

  • ユニバーサルジョイントによる交差軸伝達

2.6 同期運動の維持

二つ以上の軸または装置を、一定の速度比および位相関係を維持しながら運転する。

代表例は次のとおりである。

  • タイミングベルトによる複数軸の同期

  • 歯車列による複数ローラの同期運転

  • チェーンによる複数コンベヤ軸の連結

2.7 過負荷保護

スリップクラッチ、トルクリミッタおよび摩擦伝動装置は、過負荷発生時にすべりを発生させたり、動力伝達を遮断したりすることで機械要素を保護する。

2.8 振動および軸ずれの補償

フレキシブルカップリングやベルト伝動は、軸間の平行偏心、角度ずれおよび振動を一定範囲内で吸収できる。

3. 運動伝達機構の基本分類

運動伝達機構は、伝達原理および使用する機械要素によって、次のように分類できる。

  1. 歯車伝達機構

  2. ベルト・プーリ伝達機構

  3. チェーン・スプロケット伝達機構

  4. 軸・カップリング伝達機構

  5. 摩擦伝達機構

  6. クラッチ・ブレーキ機構

  7. ケーブル・ロープ・プーリ伝達機構

  8. 流体動力伝達機構

  9. 複合伝達機構

4. 歯車伝達機構

4.1 定義

歯車伝達機構は、歯車の歯をかみ合わせることによって、回転運動とトルクを伝達する機構である。

歯車はすべりの少ない強制かみ合い方式であるため、正確な速度比と高い伝達効率を維持できる。

4.2 基本速度比

外歯車同士がかみ合う場合の速度比は、次のように表される。

速度比
= 入力歯車の回転速度 ÷ 出力歯車の回転速度
= 出力歯車の歯数 ÷ 入力歯車の歯数

記号で表すと次のとおりである。

i = n₁ / n₂ = z₂ / z₁

ここで、

  • i:伝達比または減速比

  • n₁:入力歯車の回転速度

  • n₂:出力歯車の回転速度

  • z₁:入力歯車の歯数

  • z₂:出力歯車の歯数

理想的な条件では、出力トルクは減速比に比例して増加する。

T₂ ≈ T₁ × i × η

ここで、ηは伝達効率である。

4.3 平歯車

平歯車は、軸方向と平行な直線状の歯を持つ、最も基本的な歯車である。

特徴

  • 構造が単純である

  • 比較的製作および組立が容易である

  • 伝達効率が高い

  • 軸方向推力がほとんど発生しない

  • 高速運転では衝撃と騒音が大きくなる場合がある

主な用途

  • 一般用減速機

  • 搬送装置

  • 自動化装置

  • 包装機械

  • インデックス機構

4.4 はすば歯車

はすば歯車は、歯が軸方向に対して斜めに形成された歯車である。

特徴

  • 歯が徐々にかみ合うため、運転が滑らかである

  • 平歯車より騒音と振動が小さい

  • 複数の歯が同時にかみ合うため、荷重伝達能力が高い

  • 軸方向推力が発生する

  • 軸方向荷重を支持できる軸受が必要である

主な用途

  • 高速減速機

  • 自動車用変速機

  • 産業用ギヤボックス

  • 連続運転機械

4.5 かさ歯車

かさ歯車は、交差する二本の軸の間で回転運動を伝達する。

一般的には90度の直角軸配置に使用されるが、その他の軸角度にも対応できる。

主な種類

  • すぐばかさ歯車

  • まがりばかさ歯車

  • マイタギヤ

  • ハイポイドギヤ

主な用途

  • 直角減速機

  • 自動車の差動装置

  • 駆動方向変換機構

  • ミキサおよび撹拌装置

4.6 ウォームギヤ

ウォームギヤ機構は、ねじ状のウォームとウォームホイールによって構成される。

特徴

  • 一段で大きな減速比を得られる

  • 入力軸と出力軸を直角に配置できる

  • 比較的滑らかで静かな運転が可能である

  • すべり接触が大きいため、効率が低く発熱しやすい

  • 条件によっては自己保持性を持つ

  • 十分な潤滑と熱管理が必要である

主な用途

  • 昇降装置

  • 回転テーブル

  • バルブアクチュエータ

  • 高さ調整機構

  • 低速・高トルク駆動部

4.7 遊星歯車

遊星歯車機構は、サンギヤ、プラネタリギヤ、リングギヤおよびキャリアによって構成される。

特徴

  • 小型の構造で大きな減速比を得られる

  • 複数のプラネタリギヤが荷重を分担する

  • 入力軸と出力軸を同軸上に配置できる

  • トルク密度が高い

  • 構造と組立が複雑である

  • バックラッシと加工精度の管理が重要である

主な用途

  • サーボ減速機

  • ロボット関節

  • 自動化装置

  • 電気自動車の駆動装置

  • 精密位置決め軸

4.8 歯車伝達の設計検討項目

歯車伝達装置を設計する際には、次の項目を検討する必要がある。

  • 伝達動力

  • 入力および出力回転速度

  • 減速比

  • 歯面接触応力

  • 歯元曲げ応力

  • モジュール

  • 圧力角

  • 歯数

  • 歯幅

  • バックラッシ

  • 潤滑方式

  • 騒音と振動

  • 軸および軸受荷重

  • 組立精度

  • 熱処理および表面硬度

5. ベルト・プーリ伝達機構

5.1 定義

ベルト伝動は、二つ以上のプーリにベルトを掛けて、回転運動と動力を伝達する方式である。

ベルト伝動は、比較的長い軸間距離に適しており、衝撃や振動を吸収できる。

5.2 平ベルト

平ベルトは平らな断面を持つベルトであり、ベルトとプーリの間に発生する摩擦力によって動力を伝達する。

特徴

  • 高速運転に適している

  • 滑らかで静かな運転が可能である

  • 長い軸間距離に対応できる

  • すべりが発生する場合がある

  • 比較的大きな設置空間が必要である

5.3 Vベルト

Vベルトは台形断面を持ち、プーリ溝とのくさび作用によって高い摩擦力を発生する。

特徴

  • 平ベルトより大きな動力を伝達できる

  • 構造が単純で保守が容易である

  • 一定のすべりが発生する場合がある

  • ベルト張力の管理が必要である

  • 複数本を並列に使用できる

主な用途

  • ファン

  • ポンプ

  • コンプレッサ

  • 産業用モータ駆動

  • 農業機械

5.4 タイミングベルト

タイミングベルトは、ベルト内面の歯とプーリの歯をかみ合わせて運動を伝達する。

特徴

  • すべりがほとんどない

  • 正確な速度比を維持できる

  • 歯車より静かで軽量である

  • 潤滑を必要としない

  • 過大な張力と軸ずれに弱い

  • 衝撃荷重によって歯が損傷する場合がある

主な用途

  • サーボ軸

  • CNC装置

  • 3Dプリンタ

  • 包装機械

  • ロボットおよび自動化装置

  • カム軸同期駆動

5.5 ベルト速度比

すべりを無視した場合、ベルト伝動の速度比はプーリ直径によって決まる。

i = n₁ / n₂ = D₂ / D₁

ここで、

  • D₁:入力プーリの有効直径

  • D₂:出力プーリの有効直径

タイミングベルトの場合は、プーリの歯数によって伝達比を計算できる。

i = z₂ / z₁

5.6 ベルト伝動の設計検討項目

  • 伝達動力

  • 回転速度

  • プーリ直径

  • 軸間距離

  • ベルト長さ

  • 初張力

  • 許容張力

  • 巻付角

  • ベルト幅

  • 使用温度

  • 油および薬品への暴露

  • 軸ずれ

  • 張力調整機構

  • ベルト交換スペース

  • 安全カバー

6. チェーン・スプロケット伝達機構

6.1 定義

チェーン伝動は、チェーンのリンクをスプロケットの歯にかみ合わせて、回転運動と動力を伝達する方式である。

チェーンはベルトと異なり、すべりがほとんどなく、長い軸間距離でも比較的大きな動力を伝達できる。

6.2 主な種類

  • ローラチェーン

  • サイレントチェーン

  • コンベヤチェーン

  • アタッチメントチェーン

  • リーフチェーン

  • ダブルピッチチェーン

6.3 特徴

長所

  • すべりが少ない

  • 一定の平均速度比を維持できる

  • 比較的大きな動力を伝達できる

  • 長い軸間距離に適している

  • 高温および厳しい環境で使用できる

  • 複数の軸を同時に駆動できる

短所

  • 騒音と振動が発生する

  • 潤滑を必要とする

  • 使用に伴ってチェーンの伸びと摩耗が発生する

  • 張力調整機構が必要である

  • 高速・高精度運転には制限がある

  • 汚染物が蓄積する可能性がある

6.4 チェーン速度比

チェーン伝動の速度比は、スプロケットの歯数によって決まる。

i = n₁ / n₂ = z₂ / z₁

6.5 多角形作用

チェーンはスプロケットに完全な円として巻き付くのではなく、多角形状の軌跡を描いて移動する。

そのため、チェーン速度にわずかな変動が生じ、振動や速度むらが発生する。この現象を多角形作用、または弦節作用という。

スプロケットの歯数が少ないほど、多角形作用は大きくなる。

6.6 主な用途

  • 産業用コンベヤ

  • 包装機械

  • 食品搬送装置

  • 昇降装置

  • 農業機械

  • 大型低速駆動装置

  • 多軸同期駆動装置

6.7 チェーン伝動の設計検討項目

  • チェーンピッチ

  • スプロケット歯数

  • 伝達動力

  • チェーン速度

  • 軸間距離

  • 衝撃係数

  • 運転時間

  • 潤滑方式

  • 張力調整

  • チェーンガイド

  • 許容チェーン伸び

  • 耐食性

  • 衛生要件

  • 安全カバー

7. 軸・カップリング伝達機構

7.1 軸の役割

軸は回転運動とトルクを伝達するとともに、歯車、プーリ、スプロケット、カップリングおよび回転体を支持する。

軸には、ねじり荷重だけでなく、曲げ荷重、軸方向荷重および衝撃荷重が同時に作用する場合がある。

7.2 軸の主な種類

  • 直線軸

  • 中空軸

  • スプライン軸

  • クランク軸

  • フレキシブルシャフト

  • テレスコピックシャフト

7.3 軸設計の検討項目

  • 伝達トルク

  • 曲げモーメント

  • ねじり応力

  • 組合せ応力

  • たわみ

  • ねじれ角

  • 危険回転速度

  • 疲労強度

  • キー溝による応力集中

  • 軸受間距離

  • 軸端形状

  • 材料と熱処理

  • 表面粗さ

7.4 カップリングの役割

カップリングは、二本の軸を接続してトルクを伝達する。

軸の接続以外にも、次の機能を持つ場合がある。

  • 平行偏心の補償

  • 角度ずれの補償

  • 軸方向変位の補償

  • 振動吸収

  • 衝撃緩和

  • 電気的絶縁

  • 過負荷保護

7.5 リジッドカップリング

リジッドカップリングは、二本の軸を剛結し、軸ずれをほとんど許容しない。

特徴

  • ねじり剛性が高い

  • バックラッシがほとんどない

  • 構造が単純である

  • 正確な軸合わせが必要である

  • 軸および軸受に追加荷重を与える可能性がある

7.6 フレキシブルカップリング

フレキシブルカップリングは、弾性要素または柔軟な構造を利用して軸ずれを補償する。

主な種類は次のとおりである。

  • ジョーカップリング

  • オルダムカップリング

  • ディスクカップリング

  • ベローズカップリング

  • グリッドカップリング

  • ギヤカップリング

  • タイヤカップリング

  • ヘリカルカップリング

7.7 カップリングの選定基準

  • 定格トルク

  • 最大トルク

  • 回転速度

  • ねじり剛性

  • 許容平行偏心

  • 許容角度ずれ

  • 許容軸方向変位

  • バックラッシ

  • 慣性モーメント

  • 振動減衰性能

  • 使用温度

  • 保守性

8. 摩擦伝達機構

8.1 定義

摩擦伝達機構は、二つの接触面間に発生する摩擦力を利用して、運動と動力を伝達する。

代表例として、摩擦車、ローラ駆動、摩擦クラッチおよびローラフィーダなどがある。

8.2 特徴

長所

  • 構造が単純である

  • 静かな運転が可能である

  • 過負荷時にすべることで部品を保護できる

  • 無段変速機構を構成できる

  • 衝撃を吸収できる

短所

  • すべりやクリープが発生する場合がある

  • 正確な速度比を維持しにくい

  • 接触面が摩耗する

  • 十分な接触圧力が必要である

  • 油や水分によって摩擦力が変化する可能性がある

8.3 主な用途

  • ローラフィーダ

  • 紙およびフィルム搬送装置

  • 製品分離ローラ

  • 摩擦式無段変速装置

  • 小型搬送装置

  • スリップ保護装置

8.4 設計検討項目

  • 摩擦係数

  • 接触圧力

  • 伝達トルク

  • ローラ材質

  • 表面硬度

  • 表面粗さ

  • 摩耗

  • 発熱

  • 水分および油の影響

  • 許容すべり量

9. クラッチとブレーキ

9.1 クラッチ

クラッチは、必要に応じて入力軸と出力軸を接続または切り離す機構である。

主な種類

  • 摩擦クラッチ

  • かみ合いクラッチ

  • 電磁クラッチ

  • 遠心クラッチ

  • 流体クラッチ

  • スリップクラッチ

  • トルクリミッタ

主な機能

  • 駆動の接続と切離し

  • 滑らかな始動

  • 工程タイミングの制御

  • 過負荷保護

  • 軸ごとの選択駆動

9.2 ブレーキ

ブレーキは運動エネルギーを吸収し、回転体を減速、停止または保持する機構である。

主な種類

  • ディスクブレーキ

  • ドラムブレーキ

  • 電磁ブレーキ

  • スプリング作動ブレーキ

  • 油圧ブレーキ

  • 空気圧ブレーキ

主な機能

  • 通常停止

  • 非常停止

  • 垂直軸の落下防止

  • 位置保持

  • 逆回転防止

  • 慣性制御

9.3 選定時の検討項目

  • 制動トルク

  • 停止時間

  • 回転慣性

  • 作動頻度

  • 熱容量

  • 保持トルク

  • 応答時間

  • 非常停止要件

  • 電源遮断時の作動方式

  • 摩擦材の寿命

10. ケーブル・ロープ・プーリ伝達機構

10.1 定義

ケーブルまたはワイヤロープをプーリに巻き掛けて、引張力を伝達する方式である。

ケーブルは引張力のみを伝達でき、圧縮力を直接伝えることはできない。

10.2 主な構成要素

  • ワイヤロープ

  • ケーブル

  • 固定プーリ

  • 移動プーリ

  • ドラム

  • テンショナ

  • 端末金具

  • カウンタウェイト

10.3 特徴

  • 長い距離にわたって力を伝達できる

  • 複雑な経路に沿って配置できる

  • 比較的軽量な構造にできる

  • 力の方向を容易に変更できる

  • 張力の維持が必要である

  • 伸びおよび疲労破壊を検討する必要がある

10.4 主な用途

  • エレベータ

  • ホイスト

  • ドア開閉装置

  • ケーブル駆動ロボット

  • 運動機器

  • カウンタウェイト装置

  • 遠隔操作機構

11. 流体動力伝達機構

11.1 概要

流体動力伝達は、作動油や圧縮空気などの流体を使用して、動力と運動を伝達する方式である。

厳密には機械式伝達機構とは別の分野に分類されるが、総合的な動力伝達システムにおいて重要な役割を持つ。

11.2 油圧伝達

油圧システムは、ほぼ非圧縮性の流体を利用して、大きな力とトルクを伝達する。

長所

  • 出力密度が高い

  • 大きな力とトルクを発生できる

  • 無段階の速度調整が可能である

  • 過負荷保護を容易に構成できる

  • 複雑な経路に沿って動力を伝達できる

短所

  • 作動油漏れの可能性がある

  • 汚染管理が必要である

  • 発熱する

  • 効率損失が発生する

  • 保守負担が大きい

11.3 空気圧伝達

空気圧システムは、圧縮空気を利用して運動を伝達する。

長所

  • 構造が単純である

  • 動作速度が速い

  • 清浄な環境に適用しやすい

  • 過負荷に対して比較的安全である

短所

  • 空気の圧縮性により精密制御が難しい

  • エネルギー効率が低くなる場合がある

  • 排気騒音が発生する

  • 供給圧力の変動による影響を受ける

12. 複合運動伝達機構

実際の機械では、一種類の伝達方式だけを使用するよりも、複数の伝達要素を組み合わせる場合が多い。

例えば、次のような構成がある。

サーボモータ
→ カップリング
→ 遊星減速機
→ タイミングプーリ
→ タイミングベルト
→ 出力軸

別の例として、次のような構成もある。

誘導電動機
→ Vベルト
→ 中間軸
→ チェーン・スプロケット
→ コンベヤ駆動軸

複合伝達システムでは、各伝達要素の効率損失とバックラッシが累積する。

総合効率は、各伝達要素の効率の積として計算できる。

η_total = η₁ × η₂ × η₃ × …

総合伝達比も、各段階の伝達比の積として計算できる。

i_total = i₁ × i₂ × i₃ × …

複合伝達システムは設計自由度が高い一方、部品数、保守箇所、軸ずれおよび故障要因が増加する可能性がある。

13. 運動伝達機構の主要設計変数

13.1 伝達動力

入力動力は、回転速度とトルクの関係によって表すことができる。

P = Tω

回転速度をrpmで表す場合は、次の式を使用できる。

P = 2πnT / 60

ここで、

  • P:動力

  • T:トルク

  • ω:角速度

  • n:回転速度

13.2 伝達比

伝達比は、入力速度と出力速度の関係を示す。

減速比が大きくなると出力速度は低下し、出力トルクは増加する。

13.3 効率

すべての伝達機構では、摩擦、変形、すべりおよび潤滑抵抗による損失が発生する。

η = 出力動力 / 入力動力

13.4 バックラッシ

バックラッシとは、運動方向を反転したときに、入力側が動いても出力側が直ちに反応しない機械的すきまを意味する。

バックラッシは、特に次の装置で重要になる。

  • サーボ位置決め装置

  • ロボット

  • CNC工作機械

  • 印刷装置

  • 精密包装機械

13.5 ねじり剛性

ねじり剛性は、伝達系がトルクを受けたときに、ねじり変形へ抵抗する程度を示す。

ねじり剛性が低い場合、位置誤差、振動および応答遅れが増加する可能性がある。

13.6 慣性モーメント

モータは、加速および減速時に、伝達系と負荷の回転慣性を克服する必要がある。

サーボシステムでは、モータ慣性と負荷慣性の比率が制御安定性および応答性に大きな影響を与える。

13.7 軸ずれ

主な軸ずれには次のものがある。

  • 平行偏心

  • 角度ずれ

  • 軸方向位置誤差

  • プーリまたはスプロケットの面ずれ

軸ずれは、振動、騒音、軸受荷重の増加および寿命低下の主な原因となる。

14. 伝達方式の一般比較

14.1 歯車伝達

適している条件:

  • 正確な速度比が必要な場合

  • 高トルクを伝達する場合

  • 設置スペースが制限されている場合

  • 長期間安定した伝達が必要な場合

注意すべき項目:

  • 潤滑

  • バックラッシ

  • 騒音

  • 高精度加工

  • 軸および軸受荷重

14.2 ベルト伝達

適している条件:

  • 軸間距離が長い場合

  • 低騒音運転が必要な場合

  • 衝撃および振動を吸収する必要がある場合

  • 軽量構造が必要な場合

注意すべき項目:

  • 張力

  • すべり

  • 材料劣化

  • 軸合わせ

  • ベルト交換

14.3 チェーン伝達

適している条件:

  • 大きな荷重を伝達する場合

  • 軸間距離が長い場合

  • 厳しい使用環境

  • 複数の軸を同時に駆動する場合

注意すべき項目:

  • 潤滑

  • 伸び

  • 騒音

  • 張力

  • 安全カバー

14.4 カップリング伝達

適している条件:

  • 二本の軸を直接接続する場合

  • 軸ずれを補償する必要がある場合

  • サーボモータとボールねじを接続する場合

  • 振動と衝撃を低減する必要がある場合

注意すべき項目:

  • 許容軸ずれ

  • 定格トルク

  • ねじり剛性

  • バックラッシ

  • 疲労寿命

14.5 摩擦伝達

適している条件:

  • 低騒音運転

  • 過負荷時にすべりが必要な場合

  • 滑らかな接触伝達

  • フィルム、紙または製品を直接搬送する場合

注意すべき項目:

  • 摩擦係数の変化

  • 表面汚染

  • 接触圧力

  • 摩耗

  • 速度誤差

15. 運動伝達機構の選定手順

運動伝達機構は、次の手順で選定することが望ましい。

15.1 入力条件の定義

  • モータの種類

  • 定格出力

  • 定格トルク

  • 最大トルク

  • 入力回転速度

  • 運転時間

  • 起動および停止頻度

15.2 出力条件の定義

  • 必要な出力速度

  • 必要な出力トルク

  • 回転方向

  • 軸配置

  • 位置決め精度

  • 同期精度

  • 許容バックラッシ

15.3 空間および構造条件の確認

  • 軸間距離

  • 設置方向

  • 使用可能な設置空間

  • 保守スペース

  • 安全カバー用スペース

  • 組立および分解方法

15.4 使用環境の確認

  • 温度

  • 湿度

  • 粉じん

  • 水分

  • 腐食

  • 食品接触

  • 洗浄環境

  • 真空

  • 爆発危険

15.5 伝達方式の比較

  • 歯車

  • ベルト

  • チェーン

  • 軸およびカップリング

  • 摩擦式

  • 流体式

各方式について、効率、価格、騒音、寿命、精度および保守性を比較する。

15.6 寿命および安全率の確認

  • 静的安全率

  • 疲労安全率

  • 衝撃係数

  • サービスファクタ

  • 予定運転時間

  • 消耗品交換周期

15.7 最終検証

  • トルク検証

  • 速度検証

  • 強度検証

  • 変形検証

  • 発熱検証

  • 振動検証

  • 試作機による運転試験

16. 主な故障形態

16.1 歯車の故障

  • 歯面ピッチング

  • スコーリング

  • 歯元疲労破壊

  • 歯形摩耗

  • バックラッシ増加

  • 潤滑不足

  • 軸ずれ

16.2 ベルトの故障

  • ベルトの亀裂

  • 歯のせん断

  • 端部摩耗

  • 張力低下

  • すべり

  • プーリの軸ずれ

  • 経年劣化および硬化

16.3 チェーンの故障

  • ピンおよびブッシュの摩耗

  • チェーン伸び

  • ローラ破損

  • 腐食

  • スプロケット歯の摩耗

  • 潤滑不足

  • チェーン脱落

16.4 軸およびカップリングの故障

  • 軸の疲労破壊

  • キー溝の亀裂

  • ねじり破壊

  • カップリング弾性体の摩耗

  • ボルトの緩み

  • ハブのすべり

  • 軸ずれ

16.5 軸受関連の故障

運動伝達システムの故障は、軸受の状態と密接に関係している。

主な軸受故障は次のとおりである。

  • 疲労剥離

  • 過大予圧

  • 潤滑不足

  • 異物混入

  • 軸ずれ

  • 過熱

  • 電食

17. 保守および点検

17.1 定期点検項目

  • 異常音

  • 振動

  • 温度上昇

  • 潤滑状態

  • ベルトおよびチェーン張力

  • 軸合わせ

  • ボルトの緩み

  • 摩耗粉

  • 油漏れ

  • バックラッシの増加

17.2 予防保全

予防保全とは、所定の運転時間または期間に基づいて、部品を点検・交換する保全方式である。

主な対象部品は次のとおりである。

  • ベルト

  • チェーン

  • スプロケット

  • カップリング弾性体

  • 潤滑油

  • 軸受

  • シール

  • ブレーキパッド

17.3 状態基準保全

センサを使用して実際の運転状態を測定し、故障の可能性を評価する。

主な監視項目は次のとおりである。

  • 振動

  • 温度

  • 騒音

  • モータ電流

  • 回転速度

  • 潤滑油の状態

  • バックラッシ

  • チェーン伸び

18. 食品機械における運動伝達機構

食品機械には、一般産業機械とは異なる衛生要求が適用される。

18.1 衛生設計要求

  • 食品残渣が蓄積しにくい構造

  • 洗浄しやすい開放構造

  • 不要なすきまや隙間の最小化

  • 潤滑油漏れの防止

  • 食品接触部と伝達部の分離

  • 排水可能な表面形状

  • 耐食材料の使用

18.2 伝達方式別の衛生特性

歯車

密閉型ギヤボックス内部に配置することで、衛生性と安全性を確保しやすい。油漏れ防止とシール管理が重要である。

ベルト

潤滑を必要としないため、比較的清潔に使用できる。食品用ポリウレタンタイミングベルトや洗浄対応ベルトを使用できる。

チェーン

潤滑および汚染物蓄積の問題により、衛生管理が難しい。食品用ステンレスチェーンまたは無給油チェーンを使用できる。

カップリング

露出したボルト、すきまおよび溝を最小限にする必要がある。衛生型カップリングまたは密閉カバーの使用が推奨される。

軸受

食品用グリース、ステンレス製ハウジングおよび洗浄環境対応シールを使用する必要がある。

18.3 食品機械での適用例

  • 食肉搬送コンベヤ

  • 切断刃駆動軸

  • 充填機の同期駆動

  • ミキサおよび撹拌軸

  • 包装フィルム搬送装置

  • 成形ローラ

  • 製品排出コンベヤ

  • 洗浄可能なモジュラーベルトシステム

19. 適用事例

19.1 コンベヤ駆動システム

ギヤードモータ
→ 出力軸
→ チェーンまたはベルト
→ 駆動ローラ
→ コンベヤベルト

主な検討項目:

  • 起動トルク

  • 製品重量

  • 傾斜角度

  • 摩擦抵抗

  • 速度

  • チェーンまたはベルト張力

19.2 サーボ位置決め軸

サーボモータ
→ 精密カップリング
→ ボールねじ
→ 移動テーブル

カップリングは運動伝達要素であり、ボールねじは回転運動を直線運動へ変換する運動変換機構である。

主な検討項目:

  • バックラッシ

  • ねじり剛性

  • 慣性比

  • 軸合わせ精度

  • 繰返し位置決め精度

19.3 多軸ローラ装置

モータ
→ 減速機
→ 歯車列またはタイミングベルト
→ 複数ローラ

主な検討項目:

  • ローラ間の同期

  • 速度比

  • 位相関係

  • バックラッシ

  • 製品のすべり

19.4 切断装置

モータ
→ ベルトまたは歯車
→ 回転軸
→ 切断刃

主な検討項目:

  • 切断荷重

  • 瞬間最大トルク

  • 回転体のバランス

  • 安全カバー

  • ブレーキ

  • 軸および軸受の剛性

20. 推奨文書分類構造

運動伝達機構に関するKnowledge Packは、次のように構成することが望ましい。

A. Fundamentals

基礎事項

  • Definition

  • Power, Torque, and Speed

  • Transmission Ratio

  • Efficiency

  • Backlash

  • Torsional Stiffness

  • Rotational Inertia

B. Gear Transmission

歯車伝達

  • Spur Gear

  • Helical Gear

  • Bevel Gear

  • Worm Gear

  • Planetary Gear

  • Gear Train

C. Belt Transmission

ベルト伝達

  • Flat Belt

  • V-Belt

  • Timing Belt

  • Pulley

  • Belt Tensioning

D. Chain Transmission

チェーン伝達

  • Roller Chain

  • Conveyor Chain

  • Sprocket

  • Chain Tensioning

  • Chain Lubrication

E. Shaft and Coupling

軸およびカップリング

  • Shaft Design

  • Key and Spline

  • Rigid Coupling

  • Flexible Coupling

  • Universal Joint

F. Friction and Engagement

摩擦および接続機構

  • Friction Wheel

  • Roller Drive

  • Clutch

  • Brake

  • Torque Limiter

G. Cable and Rope Drive

ケーブル・ロープ駆動

  • Wire Rope

  • Pulley

  • Drum

  • Counterweight

  • Tensioning System

H. Design and Selection

設計および選定

  • Load Analysis

  • Speed and Torque

  • Service Factor

  • Alignment

  • Lubrication

  • Safety

  • Maintenance

I. Failure and Maintenance

故障および保守

  • Wear

  • Fatigue

  • Misalignment

  • Lubrication Failure

  • Vibration

  • Condition Monitoring

21. 結論

運動伝達機構は、動力源で発生した運動と動力を作業部へ確実に伝達する、機械システムの中核的な構成要素である。

伝達機構の選定は、必要な速度比だけを基準として決定してはならない。伝達トルク、効率、バックラッシ、ねじり剛性、慣性、騒音、振動、軸合わせ、使用環境および保守性を総合的に考慮する必要がある。

歯車は高精度かつ高トルクの伝達に適している。ベルトは長い軸間距離と低騒音運転に有利である。チェーンは大荷重および厳しい環境に適している。カップリングは軸間でトルクを伝達するとともに、軸ずれを補償するために使用される。摩擦伝達装置およびクラッチは、滑らかな接続と過負荷保護に有効である。

したがって、運動伝達機構は次の順序で設計・選定することが望ましい。

入力動力および速度の定義
→ 出力トルクおよび速度の定義
→ 軸配置と設置空間の確認
→ 伝達方式の比較
→ 伝達比と効率の計算
→ 強度と寿命の確認
→ 軸合わせ、潤滑および安全性の確認
→ 保守性および衛生設計の確認

運動伝達機構を適切に設計することで、機械の性能と精度だけでなく、耐久性、エネルギー効率、安全性および保守性を同時に向上させることができる。