1. ゴムおよび弾性材料の基本概念
ゴムおよび弾性材料は、比較的小さな力によって大きく変形し、荷重を除去すると元の形状に近い状態まで回復する高分子材料である。
このような性質は、一般に弾性またはゴム弾性と呼ばれる。
ゴムの弾性は、金属の弾性とは発生原理が異なる。
金属では原子間の結合距離がわずかに変化することによって弾性変形が生じる。一方、ゴムでは長く柔軟な高分子鎖がほどけ、伸び、配向することで大きな変形が生じる。
ゴム材料が弾性体として機能するためには、一般に次の条件が必要である。
長く柔軟な高分子鎖
使用温度より低いガラス転移温度
分子鎖間の適度な架橋構造
過度に結晶化していない構造
変形後に分子鎖が元の無秩序な状態へ戻ろうとする性質
ゴム材料は主に次の目的で使用される。
シール
防振
衝撃吸収
騒音低減
摩擦力の確保
柔軟な接続
圧力伝達
オイル、水、ガスの漏れ防止
電気絶縁
表面保護
代表的な機械部品には、次のものがある。
Oリング
オイルシール
ガスケット
パッキン
ホース
ベルト
ローラー
防振ゴム
ダイヤフラム
フレキシブルカップリング
ワイパーシール
ブーツ
ケーブル被覆
2. ゴム材料の構成
ゴム製品は、ベースポリマーだけで製造されるものではない。
一般的なゴムコンパウンドは、次の成分から構成される。
ベースゴム
補強充填材
非補強充填材
加硫剤
加硫促進剤
加硫活性剤
可塑剤またはプロセスオイル
酸化防止剤
オゾン劣化防止剤
接着促進剤またはカップリング剤
顔料
難燃剤
発泡剤
機能性添加剤
2.1 ベースゴム
ベースゴムは、製品の基本的な耐油性、耐熱性、耐候性、低温柔軟性および弾性を決定する。
代表的なベースゴム:
NR
SBR
BR
NBR
HNBR
EPDM
CR
IIR
VMQ
FKM
FFKM
ACM
ECO
AUおよびEU
TPEおよびTPU
2.2 PHRの意味
ゴム配合では、一般的な質量百分率に加えてPHRという単位が広く使用される。
PHRとは、次の意味である。
Parts per Hundred Rubber
ベースゴム100重量部を基準として、各添加剤の量を表す方法である。
例えば、次の配合を想定する。
NBR:100 PHR
カーボンブラック:50 PHR
可塑剤:10 PHR
酸化亜鉛:5 PHR
硫黄:1.5 PHR
全配合量は166.5重量部となる。
これを完成コンパウンドの質量百分率に換算すると、ベースゴムの実際の割合は約60%となる。
したがって、「カーボンブラック50 PHR」は、完成品の50%がカーボンブラックであるという意味ではない。
2.3 一般的なゴムコンパウンドの構成比
構成成分 | 代表的な配合量 | 完成品中の一般的な割合 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
ベースゴム | 100 PHR | 約35~80 wt.% | 基本弾性および耐環境性 |
カーボンブラック | 10~100 PHR | 約5~40 wt.% | 強度、硬度、耐摩耗性 |
シリカ | 5~80 PHR | 約3~35 wt.% | 補強、低発熱、色調調整 |
無機充填材 | 5~150 PHR | 約3~50 wt.% | コスト、硬度、寸法調整 |
可塑剤・プロセスオイル | 2~80 PHR | 約1~30 wt.% | 柔軟性、加工性、低温特性 |
加硫剤 | 0.5~5 PHR | 通常0.2~3 wt.% | 架橋形成 |
加硫促進剤 | 0.2~5 PHR | 通常0.1~3 wt.% | 加硫速度と架橋構造の制御 |
酸化亜鉛 | 2~10 PHR | 通常1~5 wt.% | 加硫活性化 |
ステアリン酸 | 0.5~3 PHR | 通常0.2~2 wt.% | 加硫活性化および加工補助 |
酸化防止剤・オゾン劣化防止剤 | 0.5~5 PHR | 通常0.2~3 wt.% | 劣化防止 |
顔料・その他添加剤 | 0.1~10 PHR | 通常0.1~5 wt.% | 色調および機能調整 |
実際の配合は、目標硬度、色、食品接触適合性、難燃性、耐油性および製造方法によって大きく異なる。
3. ゴム弾性が発生する原理
3.1 分子鎖構造
ゴムの分子鎖は、常温では不規則に折り畳まれたコイル状の形態を持つ。
ゴムを引張ると、分子鎖は荷重方向へ伸びて配向する。
荷重を除去すると、分子鎖は再び無秩序な状態に戻ろうとする。
この過程によって大きな弾性回復が生じる。
3.2 架橋構造
架橋とは、異なる高分子鎖同士を化学結合によって連結する構造である。
架橋が存在しない場合、分子鎖は時間とともに互いに滑り、永久変形が発生する。
適切な架橋が形成されると、次の特性が得られる。
弾性回復性の向上
引張強さの増加
耐熱性の向上
耐溶剤性の向上
圧縮永久ひずみの低減
クリープの低減
粘着性の低減
架橋密度が過度に高い場合は、次の傾向が現れる。
硬度の増加
弾性変形量の減少
伸びの低下
衝撃吸収性の低下
脆性の増加
疲労亀裂が増加する可能性
3.3 ガラス転移温度
ゴムが柔軟な弾性体として機能するためには、使用温度がガラス転移温度より十分に高い必要がある。
ガラス転移温度以下では、次の現象が生じる。
ゴムが硬くなる。
弾性が低下する。
衝撃に対して脆くなる。
シール接触力が低下する場合がある。
亀裂の可能性が増加する。
したがって、低温用シールでは最低使用温度だけでなく、実際の圧縮状態における回復性を確認する必要がある。
4. 加硫方式
4.1 硫黄加硫
硫黄を使用して高分子鎖間に硫黄架橋を形成する方式である。
主に使用される材料:
NR
SBR
BR
NBR
一部のEPDM
CR系材料
長所:
優れた弾性
高い引張強さ
良好な耐疲労性
経済性
加工技術が確立されている
制限:
高温で硫黄架橋が劣化する場合がある。
圧縮永久ひずみが増加する場合がある。
金属への汚染や変色が発生する場合がある。
食品・医療用途では残留物の確認が必要。
4.2 過酸化物加硫
有機過酸化物を使用して炭素–炭素架橋を形成する方式である。
主に使用される材料:
EPDM
シリコーンゴム
HNBR
一部のNBR
FKM
ポリエチレン系エラストマー
長所:
高い耐熱性
良好な圧縮永久ひずみ特性
低抽出物配合が可能
蒸気および高温水環境に有利な場合が多い
金属腐食や汚染の低減
制限:
硫黄加硫より引裂性や疲労特性が低い場合がある。
加硫中に酸素の影響を受ける。
臭気および副生成物の管理が必要。
一部の可塑剤や添加剤が使用できない。
4.3 金属酸化物加硫
主にCRおよび一部のハロゲン含有ゴムで使用される。
代表的な加硫剤:
酸化亜鉛
酸化マグネシウム
金属酸化物は架橋に寄与するとともに、酸性副生成物を中和する役割も持つ。
4.4 白金触媒付加硬化
シリコーンゴムで広く使用される硬化方式である。
長所:
副生成物が少ない。
臭気が少ない。
食品・医療用途に適している。
高純度配合が可能。
寸法安定性が良好。
注意事項:
硫黄、アミン、スズ化合物および特定の汚染物質が触媒を阻害する場合がある。
材料および金型の汚染管理が必要。
5. 天然ゴム — NR
5.1 基本構成
天然ゴムはゴムの木のラテックスから得られる高分子であり、主成分はcis-1,4-ポリイソプレンである。
項目 | 内容 |
|---|---|
基本モノマー | イソプレン |
モノマー化学式 | C₅H₈ |
繰返し構造 | cis-1,4-ポリイソプレン |
主な構成元素 | C、H |
主ゴム成分 | 天然ラテックス固形分の大部分 |
その他の天然成分 | タンパク質、脂肪酸、樹脂、無機物など |
天然ゴム繰返し単位の理論元素質量比:
炭素:約88.2%
水素:約11.8%
5.2 代表的な配合例
成分 | 代表範囲、PHR |
|---|---|
NR | 100 |
カーボンブラック | 20~60 |
プロセスオイル | 0~20 |
酸化亜鉛 | 3~5 |
ステアリン酸 | 1~3 |
硫黄 | 1~3 |
加硫促進剤 | 0.5~2 |
酸化防止剤 | 1~3 |
5.3 特性
長所:
非常に高い弾性
優れた引張強さ
高い引裂強さ
優れた動的疲労特性
良好な耐摩耗性
低い発熱
良好な接着性
制限:
耐油性が低い。
燃料に弱い。
オゾンおよび紫外線に弱い。
耐熱性が限定的。
長期間の酸化によって亀裂が発生する。
天然タンパク質によるアレルギーの可能性がある。
5.4 主な用途
防振ゴム
タイヤ
コンベヤベルト
ローラー
カップリング
高弾性パッド
衝撃吸収部品
ゴムばね
6. スチレンブタジエンゴム — SBR
6.1 基本構成
SBRはスチレンとブタジエンの共重合体である。
代表的なモノマー構成比:
成分 | 代表範囲 |
|---|---|
ブタジエン | 約70~80 wt.% |
スチレン | 約20~30 wt.% |
一般的な汎用SBRでは、スチレン含有量が約23.5%のグレードが広く使用されている。
6.2 各成分の役割
ブタジエン
弾性を与える。
低温柔軟性を与える。
動的疲労特性を向上させる。
スチレン
強度を高める。
硬度を高める。
耐摩耗性を向上させる。
加工性を改善する。
含有量が増えると低温柔軟性が低下する場合がある。
6.3 代表的な配合
成分 | 代表範囲、PHR |
|---|---|
SBR | 100 |
カーボンブラック | 40~100 |
プロセスオイル | 5~50 |
酸化亜鉛 | 3~5 |
ステアリン酸 | 1~3 |
硫黄 | 1~2.5 |
加硫促進剤 | 0.5~2 |
老化防止剤 | 1~3 |
6.4 特性
良好な耐摩耗性
良好な加工性
均一な品質
NRより低い引張強さおよび引裂強さ
オイルと燃料に弱い
耐オゾン性が限定的
比較的低価格
6.5 主な用途
タイヤ
一般ベルト
マット
靴底
一般ガスケット
防振部品
ゴムシート
7. ブタジエンゴム — BR
7.1 基本構成
BRはブタジエンを重合して製造される。
項目 | 内容 |
|---|---|
モノマー | 1,3-ブタジエン |
モノマー化学式 | C₄H₆ |
主な構造 | cis-1,4、trans-1,4、ビニル構造 |
主な構成元素 | C、H |
ハイシスBRは、cis-1,4構造の比率が非常に高いグレードである。
7.2 特性
非常に低いガラス転移温度
優れた低温弾性
低い発熱
高い反発弾性
良好な耐摩耗性
単独での加工性が低い
引裂強さが限定的
一般にNRまたはSBRと混合して使用
7.3 主な用途
タイヤトレッドおよびサイドウォール
高反発ローラー
振動部品
耐摩耗ゴム
ゴルフボール
コンベヤベルト
8. ニトリルゴム — NBR
8.1 基本構成
NBRはアクリロニトリルとブタジエンの共重合体である。
代表的な共重合組成:
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
アクリロニトリル、ACN | 約18~50 wt.% |
ブタジエン | 残部、約50~82 wt.% |
ACN含有量によって次のように分類できる。
低ニトリル:約18~25%
中ニトリル:約26~35%
高ニトリル:約36~50%
8.2 成分と特性の関係
アクリロニトリル含有量の増加
耐油性が向上する。
燃料耐性が向上する。
ガス透過性が低下する。
引張強さと硬度が増加する場合がある。
低温柔軟性が低下する。
弾性が低下する。
圧縮永久ひずみが増加する場合がある。
ブタジエン含有量の増加
低温柔軟性が向上する。
弾性が向上する。
オイルによる膨潤が増加する。
ガスバリア性が低下する。
8.3 代表的な配合
成分 | 代表範囲、PHR |
|---|---|
NBR | 100 |
カーボンブラック | 30~80 |
可塑剤 | 5~40 |
酸化亜鉛 | 3~5 |
ステアリン酸 | 0.5~2 |
硫黄または過酸化物 | グレードによる |
加硫促進剤 | 0.5~3 |
酸化防止剤 | 1~3 |
8.4 特性
長所:
優れた鉱油耐性
優れたグリース耐性
良好な燃料耐性
良好な耐摩耗性
比較的高い機械的強度
低いガス透過性
制限:
オゾンと紫外線に弱い。
高温空気中での老化に制限がある。
極低温柔軟性が限定的。
ケトン、エステルおよび一部の極性溶剤には不適。
一般に蒸気用途には不適。
8.5 主な用途
オイルシール
Oリング
油圧シール
空圧シール
燃料ホース
オイルホース
ダイヤフラム
ゴムローラー
ガスケット
9. 水素化ニトリルゴム — HNBR
9.1 基本構成
HNBRは、NBRのブタジエン部分に存在する不飽和結合を水素化して製造される。
主な構成:
アクリロニトリル
水素化されたブタジエン系鎖
少量の残留不飽和結合
水素化率は、一般に非常に高い水準に制御される。
9.2 水素化の効果
ブタジエン鎖の二重結合を減少させると、次の特性が向上する。
耐熱性
耐酸化性
耐オゾン性
機械的強度
耐摩耗性
圧縮永久ひずみ特性
高温オイル耐性
低温特性および価格ではNBRより不利な場合がある。
9.3 特性
高い耐熱性
高い引張強さ
優れたオイルおよび燃料耐性
優れた耐オゾン性
良好な耐摩耗性と耐疲労性
過酸化物加硫が可能
NBRより高価
9.4 主な用途
自動車エアコン用シール
高温油圧シール
エンジンシール
高圧Oリング
タイミングベルト
油田設備用シール
高耐久ダイヤフラム
10. EPDM
10.1 基本構成
EPDMは、エチレン、プロピレンおよび少量の非共役ジエンから構成される三元共重合体である。
代表的な組成範囲:
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
エチレン | 約45~75 wt.% |
プロピレン | 約20~50 wt.% |
ジエン | 約1~10 wt.% |
代表的なジエン成分:
ENB
DCPD
VNB
10.2 成分と特性の関係
エチレン含有量の増加
結晶性が増加する場合がある。
引張強さが増加する。
押出形状保持性が向上する。
低温弾性が低下する場合がある。
混練特性が変化する。
プロピレン含有量の増加
柔軟性が増加する。
低温特性が改善する場合がある。
結晶性が低下する。
強度と押出安定性が低下する場合がある。
ジエン含有量の増加
加硫速度が増加する。
架橋反応性が増加する。
機械的強度が向上する。
過度になると耐老化性が低下する場合がある。
10.3 代表的な配合
成分 | 代表範囲、PHR |
|---|---|
EPDM | 100 |
カーボンブラック | 40~150 |
パラフィン系オイル | 20~150 |
炭酸カルシウムなどの充填材 | 0~150 |
酸化亜鉛 | 3~5 |
硫黄または過酸化物 | グレードによる |
加硫促進剤 | 1~5 |
酸化防止剤 | 0.5~2 |
EPDMは多量のオイルと充填材を受け入れることができるため、硬度とコストを広範囲に調整できる。
10.4 特性
長所:
非常に優れた耐候性
優れた耐オゾン性
優れた温水耐性
一部の蒸気環境に対応可能
酸およびアルカリに比較的強い
良好な電気絶縁性
広い使用温度範囲
制限:
鉱油に弱い。
燃料に弱い。
炭化水素系溶剤には不適。
金属への接着には特別な処理が必要な場合がある。
10.5 主な用途
水用Oリング
蒸気用ガスケット
衛生シール
屋外用パッキン
自動車用ウェザーストリップ
ラジエーターホース
屋根防水材
電線被覆
11. クロロプレンゴム — CR
11.1 基本構成
CRはクロロプレンを重合したゴムであり、ネオプレンという商品名でも広く知られている。
項目 | 内容 |
|---|---|
モノマー | 2-クロロ-1,3-ブタジエン |
主な構成元素 | C、H、Cl |
特徴的元素 | 塩素 |
11.2 塩素の影響
塩素原子は、次の特性に寄与する。
難燃性の向上
耐候性の向上
耐オゾン性の向上
一定の耐油性向上
極性の増加
密度の増加
11.3 代表的な配合
成分 | 代表範囲、PHR |
|---|---|
CR | 100 |
カーボンブラック | 20~80 |
可塑剤 | 5~30 |
酸化マグネシウム | 2~8 |
酸化亜鉛 | 3~8 |
酸化防止剤 | 1~3 |
加硫促進剤 | グレードによる |
11.4 特性
優れた耐候性と耐オゾン性
良好な難燃性
NRおよびSBRより優れた耐油性
良好な機械的強度
良好な接着性
低温柔軟性は限定的
NBRより耐油性が低い
電気特性が湿度の影響を受ける場合がある
11.5 主な用途
一般産業用ホース
ベルト
防振マウント
電線被覆
接着剤
ダイヤフラム
難燃ガスケット
屋外用ゴム部品
12. ブチルゴム — IIR
12.1 基本構成
IIRは、イソブチレンと少量のイソプレンから構成される共重合体である。
代表的な組成:
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
イソブチレン | 約97~99.5 wt.% |
イソプレン | 約0.5~3 wt.% |
少量のイソプレンは、加硫可能な不飽和結合を与える。
12.2 特性
非常に低いガス透過性
優れた気密性
優れた耐オゾン性および耐候性
良好な振動減衰性
酸およびアルカリに比較的強い
低い反発弾性
オイルおよび炭化水素燃料に弱い
金属や他のゴムとの接着が難しい場合がある
12.3 ハロブチルゴム
IIRに塩素または臭素を導入した材料である。
CIIR:塩素化ブチルゴム
BIIR:臭素化ブチルゴム
ハロゲン導入の効果:
加硫速度の向上
接着性の向上
他のゴムとの共加硫性の改善
耐熱性と気密性の維持
12.4 主な用途
タイヤインナーライナー
真空シール
医薬品用栓
ガスバリア膜
防振パッド
ダイヤフラム
気密ホース
13. シリコーンゴム — VMQ
13.1 基本構成
シリコーンゴムは、炭素–炭素結合ではなく、ケイ素–酸素結合を主鎖とする。
項目 | 内容 |
|---|---|
主鎖 | –Si–O–Si– |
主な構成元素 | Si、O、C、H |
代表的側鎖 | メチル、ビニル、フェニル、フッ素系側鎖 |
代表的種類 | VMQ、PVMQ、FVMQ |
VMQはビニルメチルシリコーンゴムを意味する。
13.2 一般的なコンパウンド構成
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
シリコーンポリマー | 約30~80 wt.% |
補強シリカ | 約10~40 wt.% |
非補強充填材 | 約0~40 wt.% |
構造調整剤 | 約1~10 wt.% |
硬化剤 | 通常0.5~5 wt.% |
顔料・添加剤 | 通常0.1~5 wt.% |
高硬度製品では、シリカおよびその他の充填材の割合が増加する場合がある。
13.3 シリカの役割
シリコーンポリマー単体では、機械的強度が比較的低い。
微細シリカを添加すると、次の特性が向上する。
引張強さ
引裂強さ
硬度
圧縮特性
粘度
加工抵抗
シリカ表面とポリマーの相互作用が強すぎると、保存中に構造化現象が発生するため、構造調整剤が使用される。
13.4 特性
長所:
非常に広い使用温度範囲
優れた低温柔軟性
優れた耐候性と耐オゾン性
良好な電気絶縁性
食品用・医療用コンパウンドを選択可能
多様な色を実現可能
低毒性配合が可能
柔らかな感触と良好な圧縮性
制限:
引裂強さが低い場合がある。
耐摩耗性が比較的低い。
ガス透過性が高い。
鉱油および燃料への耐性が限定的。
鋭利な角部で裂けやすい。
一般ゴムより高価。
13.5 主な用途
食品機械用ガスケット
衛生ホース
オーブンシール
医療用チューブ
電気絶縁部品
高温パッキン
キーパッド
ダイヤフラム
真空用部品
14. フッ素ゴム — FKM
14.1 基本構成
FKMはフッ素を含む高性能合成ゴムの総称である。
代表的なモノマー組合せ:
フッ化ビニリデン、VDF
ヘキサフルオロプロピレン、HFP
テトラフルオロエチレン、TFE
パーフルオロメチルビニルエーテル、PMVE
FKMのフッ素含有量は一般に約65~71 wt.%である。
フッ素含有量が増えるほど、燃料および薬品への耐性が向上する傾向がある。
14.2 種類別の構成
Type 1
VDF+HFP
汎用フッ素ゴム
良好なオイルおよび燃料耐性
Type 2
VDF+HFP+TFE
フッ素含有量が高い
化学薬品および燃料耐性が向上
Type 3
VDF+TFE+PMVE
低温柔軟性と耐薬品性のバランス
Type 4およびType 5
特殊な共重合組成
高耐熱、高耐薬品または低温特性を調整
14.3 一般的なコンパウンド構成
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
FKMポリマー | 約50~80 wt.% |
カーボンブラック・無機充填材 | 約10~35 wt.% |
受酸剤 | 約2~10 wt.% |
加硫剤・促進剤 | 約1~5 wt.% |
加工助剤 | 約0.5~5 wt.% |
14.4 特性
長所:
高い耐熱性
優れた鉱油耐性
優れた燃料耐性
多くの溶剤への耐性
低いガス透過性
優れた耐オゾン性・耐紫外線性
良好な難燃性
良好な高温圧縮永久ひずみ特性
制限:
低温柔軟性が限定的。
高温水および蒸気ではグレードごとの検討が必要。
アミン、ケトンおよび一部エステルに制限がある。
高価である。
後加硫が必要な場合がある。
14.5 主な用途
高温Oリング
燃料系シール
化学設備用ガスケット
真空シール
高温オイルシール
航空機燃料部品
半導体装置用シール
15. パーフルオロエラストマー — FFKM
15.1 基本構成
FFKMは、高分子鎖の大部分が完全にフッ素化された弾性体である。
主な構成:
TFE系モノマー
パーフルオロビニルエーテル
架橋サイトモノマー
非常に高いフッ素含有量により、PTFEに近い化学安定性を持ちながら、弾性を維持する。
15.2 特性
極めて高い耐薬品性
非常に高い耐熱性
低アウトガスグレードを選択可能
真空および半導体プロセスに適合
優れた高温圧縮永久ひずみ特性
ほぼすべての流体に対応可能なグレードが存在
制限:
極めて高価
低温特性はグレードによって異なる
機械的強度と引裂性はグレードによって異なる
正確な流体および温度条件に基づく選定が必要
15.3 主な用途
半導体プロセス用シール
高純度化学設備
強酸・強アルカリ用Oリング
航空宇宙用シール
高温反応器
医薬品製造設備
16. アクリルゴム — ACM
16.1 基本構成
ACMは、アクリル酸エステル系モノマーを主成分とするゴムである。
主な構成:
エチルアクリレート
ブチルアクリレート
架橋サイトモノマー
エステル側鎖は、オイルと熱に対する耐性を与える。
16.2 特性
優れた高温オイル耐性
良好な耐酸化性および耐オゾン性
自動変速機油に適する
低温柔軟性は限定的
水と蒸気への耐性は限定的
燃料耐性はFKMより低い
加水分解環境に注意が必要
16.3 主な用途
自動車用オイルシール
トランスミッションシール
高温オイルホース
エンジンガスケット
潤滑油用パッキン
17. エピクロロヒドリンゴム — ECO
17.1 基本構成
ECOは、エピクロロヒドリン系モノマーを含む弾性体である。
代表的な種類:
CO:エピクロロヒドリン単独重合体
ECO:エピクロロヒドリンとエチレンオキサイドの共重合体
GECO:架橋サイトを含む三元共重合体
17.2 特性
低い燃料透過性
良好なオイルおよび燃料耐性
優れた耐オゾン性
比較的良好な低温特性
良好な耐熱性
電気伝導性または帯電防止性を調整可能
水および蒸気環境に制限がある場合がある
酸性副生成物の管理が必要
17.3 主な用途
燃料ホース
自動車用ダイヤフラム
ガスケット
燃料蒸気バリア部品
帯電防止ローラー
18. ポリウレタン弾性体 — AU・EU
18.1 基本構成
ポリウレタン弾性体は、ポリオール、イソシアネートおよび鎖延長剤から構成される。
構成成分 | 主な役割 |
|---|---|
ポリオール | ソフトセグメントと低温柔軟性 |
イソシアネート | ハードセグメント形成 |
鎖延長剤 | 分子量および硬質領域の調整 |
架橋剤 | 熱硬化型ネットワークの形成 |
触媒 | 反応速度調整 |
安定剤 | 熱、光、加水分解安定性の改善 |
主な種類:
AU:ポリエステル系ウレタンゴム
EU:ポリエーテル系ウレタンゴム
18.2 ポリエステル系とポリエーテル系の比較
ポリエステル系
高い機械的強度
優れた耐摩耗性
良好な耐油性
加水分解に弱い場合がある
ポリエーテル系
優れた耐水性および耐湿性
良好な低温柔軟性
良好な耐微生物性
一部のオイルと溶剤に対する耐性はポリエステル系より低い場合がある
18.3 特性
非常に高い耐摩耗性
高い引張強さ
高い引裂強さ
広い硬度範囲
高い荷重支持能力
良好な弾性と衝撃吸収性
摩擦熱と内部発熱に注意が必要
高温連続使用は限定的
加水分解および微生物劣化の確認が必要
18.4 主な用途
産業用ローラー
車輪
スクレーパー
油圧シール
緩衝部品
カップリングエレメント
ベルト
耐摩耗ライナー
19. 熱可塑性エラストマー — TPE
19.1 基本概念
TPEは、ゴムのような弾性を持ちながら、熱可塑性樹脂のように溶融成形できる材料である。
一般的な加硫ゴムとは異なり、化学的加硫工程を省略または最小化できる。
長所:
射出成形が可能
押出成形が可能
再加工およびリサイクルが可能
短い生産サイクル
金属またはプラスチックとの二色成形が可能
多様な色を実現可能
制限:
高温クリープ
圧縮永久ひずみ
長期耐熱性
オイルおよび薬品耐性
永久架橋ゴムより弾性回復が低い場合がある
19.2 TPE-S
スチレン系熱可塑性エラストマーである。
代表的な種類:
SBS
SEBS
SIS
構造:
硬いスチレンブロック
柔軟なブタジエンまたはエチレン–ブチレンブロック
一般的なコンパウンド構成:
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
ブロック共重合体 | 約15~60 wt.% |
プロセスオイル | 約10~60 wt.% |
PP・PEなどの樹脂 | 約5~40 wt.% |
充填材 | 約0~40 wt.% |
安定剤・顔料 | 約0.5~5 wt.% |
特性:
柔らかな触感
優れた成形性
透明グレードが可能
良好な低温柔軟性
高温耐久性は限定的
耐油性が限定的
屋外用途ではSEBSがSBSより有利
主な用途:
ハンドル
グリップ
シール
緩衝材
電線被覆
消費財のオーバーモールド
19.3 TPO
TPOは、PPとEPDMまたはその他のオレフィン系エラストマーのブレンドである。
代表的な構成:
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
PP | 約20~70 wt.% |
EPDM・オレフィン系エラストマー | 約20~70 wt.% |
充填材・オイル・添加剤 | 約0~40 wt.% |
特性:
低密度
優れた耐候性
良好な衝撃強さ
比較的高い剛性
射出および押出成形が可能
一般加硫ゴムより圧縮回復性が低い
耐油性が限定的
主な用途:
自動車バンパー
カバー
防水シート
外装部品
フレキシブルダクト
19.4 TPV
TPVは、熱可塑性樹脂中に加硫済みゴム粒子が分散した動的加硫材料である。
代表的な構造:
連続相:PP
分散相:加硫EPDM
代表的な構成:
構成成分 | 代表範囲 |
|---|---|
EPDM | 約30~70 wt.% |
PP | 約15~50 wt.% |
プロセスオイル | 約5~40 wt.% |
充填材・加硫剤・添加剤 | 約5~30 wt.% |
特性:
一般的なTPOより弾性回復が良い
優れた耐候性と耐オゾン性
射出および押出成形が可能
リサイクル可能
EPDM加硫ゴムより高温圧縮永久ひずみが大きい場合がある
鉱油および燃料には制限がある
主な用途:
ウェザーストリップ
フレキシブルホース
シール
グロメット
自動車用ダクト
電気コネクターシール
19.5 TPU
TPUは熱可塑性ポリウレタンである。
代表的な構成:
ポリオール系ソフトセグメント
イソシアネート系ハードセグメント
鎖延長剤
安定剤
潤滑剤
顔料
特性:
非常に高い耐摩耗性
高い引張強さ
優れた引裂強さ
透明グレードが可能
射出および押出成形が可能
オイルとグリースに比較的強い
圧縮永久ひずみは加硫ウレタンより大きい場合がある
高温多湿環境では加水分解に注意
主な用途:
ベルト
ホース
ケーブル被覆
車輪
ローラー
フレキシブルカップリング
保護フィルム
空圧チューブ
20. 充填材および添加剤の役割
20.1 カーボンブラック
カーボンブラックは、ゴムで最も広く使用される補強材である。
主な構成元素は炭素である。
効果:
引張強さの増加
耐摩耗性の向上
引裂強さの増加
硬度の増加
紫外線遮蔽
電気伝導性の調整
コスト調整
一般に、粒子が小さく比表面積が大きいほど補強効果が高くなるが、粘度と発熱も増加する場合がある。
20.2 シリカ
主成分は二酸化ケイ素である。
効果:
ゴムの補強
引張強さおよび引裂強さの向上
透明または着色製品の製造
電気絶縁性の維持
発熱および摩擦特性の調整
シリカは表面が極性を持つため、非極性ゴムとの結合を改善する目的でシランカップリング剤が使用される場合がある。
20.3 炭酸カルシウム
効果:
コスト低減
硬度調整
寸法安定性
押出形状保持性
表面特性調整
過度に添加すると、引張強さと弾性が低下する場合がある。
20.4 クレーおよびタルク
効果:
硬度増加
押出性および寸法安定性向上
ガス透過性が低下する可能性
コスト低減
難燃性補助
20.5 プロセスオイルおよび可塑剤
主な種類:
パラフィン系オイル
ナフテン系オイル
芳香族系オイル
エステル系可塑剤
高分子量可塑剤
効果:
硬度低下
柔軟性増加
低温特性向上
混練および押出性改善
充填材分散改善
コスト調整
注意事項:
オイル抽出
体積膨潤
揮発および硬化
食品接触適合性
シール流体との相溶性
低温および高温特性の変化
20.6 酸化防止剤
熱と酸素による分子鎖の劣化を抑制する。
効果:
硬化と亀裂の遅延
引張強さの維持
使用寿命の延長
耐熱老化性の向上
20.7 オゾン劣化防止剤
オゾンがゴムの二重結合を攻撃することを抑制する。
対策:
化学的オゾン劣化防止剤
ワックス保護膜
EPDM、シリコーン、FKMなどの飽和型ゴムの採用
引張状態の最小化
紫外線遮蔽
20.8 難燃剤
難燃剤は、燃焼を遅らせたり自己消火性を高めたりする。
主な種類:
ハロゲン系
リン系
金属水酸化物
膨張型難燃剤
難燃剤は次の特性に影響を与える場合がある。
引張強さ
伸び
硬度
密度
電気特性
圧縮永久ひずみ
煙および燃焼ガス
21. ゴムの主な機械的特性
21.1 硬度
ゴム硬度は一般にショアAで表示される。
おおよその適用傾向:
ショアA硬度 | 一般的な性格 |
|---|---|
20~40 | 非常に柔らかい、大きな変形 |
40~60 | 一般シールおよび防振材 |
60~75 | Oリングおよび産業用パッキン |
75~90 | 高圧シールおよび高荷重部品 |
90以上 | 半硬質ウレタンおよび特殊部品 |
硬度が高くなると、一般に次の傾向が現れる。
変形抵抗が増加する。
圧縮力が増加する。
耐押出性が向上する。
組付け力が増加する。
低圧での密封性が低下する場合がある。
衝撃吸収性が低下する場合がある。
21.2 引張強さ
ゴムの引張強さは、次の要因の影響を受ける。
ベースゴム
架橋密度
カーボンブラックおよびシリカ
可塑剤
試験温度
ひずみ速度
老化状態
繊維方向
NR、HNBR、ポリウレタンは高い引張強さを得やすい。
シリコーンおよびFFKMは耐環境性に優れるが、機械的強度は配合によって比較的低い場合がある。
21.3 伸び
伸びは、破断するまでにどの程度伸長できるかを示す。
ゴム材料は、一般に数百パーセントの伸びを持つことがある。
ただし、伸びが大きいことが必ずしも耐久性の高さを意味するわけではない。
実際のシール設計では、次の項目も確認する必要がある。
繰返し変形
ノッチ
表面欠陥
圧縮永久ひずみ
温度
化学膨潤
21.4 引裂強さ
引裂強さは、切れ目や亀裂が発生した後、その亀裂が進展することに対する抵抗を示す。
引裂強さが重要な部品:
ダイヤフラム
ベルト
薄いシールリップ
ブーツ
ローラー被覆
繰返し曲げ部品
一般に、NRとポリウレタンは引裂性に優れ、シリコーンは鋭利な損傷に注意が必要である。
21.5 反発弾性
反発弾性は、衝撃エネルギーがどの程度回復されるかを示す。
反発弾性が高い材料:
NR
BR
一部のポリウレタン
反発弾性が低い材料:
IIR
一部の高充填ゴム
振動減衰用コンパウンド
防振設計では、単に弾性が高い材料よりも、損失係数と減衰特性も重要である。
21.6 圧縮永久ひずみ
ゴムを一定時間圧縮した後、荷重を除去した際に元の厚さまで回復しなかった割合を示す。
圧縮永久ひずみが小さいほど、長期間の密封力維持に有利である。
影響要因:
温度
圧縮率
時間
加硫方式
架橋密度
可塑剤
流体膨潤
ゴム厚さ
後加硫
Oリング、ガスケットおよびパッキンでは、引張強さより圧縮永久ひずみが重要な場合が多い。
21.7 クリープと応力緩和
ゴムを一定変形に保持すると、反力が時間とともに低下する。
これを応力緩和という。
シール部では次の問題が発生する可能性がある。
接触圧力の低下
漏れの発生
締付け力の低下
防振性能の変化
21.8 疲労と亀裂成長
繰返し曲げや引張によって、微細亀裂が成長する場合がある。
影響要因:
ゴムの種類
充填材の分散
オゾン暴露
表面欠陥
平均ひずみ
繰返し周波数
自己発熱
温度
流体暴露
22. 熱的特性
22.1 使用温度
ゴムの使用温度は、次の項目を総合的に確認する必要がある。
低温柔軟性
ガラス転移温度
高温酸化
架橋劣化
圧縮永久ひずみ
流体と温度の複合作用
短時間温度と連続使用温度
代表的な相対傾向:
材料 | 低温特性 | 高温特性 |
|---|---|---|
NR | 良好 | 限定的 |
SBR | 普通 | 限定的 |
NBR | ACN含有量による | 中程度 |
HNBR | 良好 | 高い |
EPDM | 優秀 | 高い |
CR | 普通 | 中程度 |
IIR | 良好 | 中程度 |
シリコーン | 非常に優秀 | 非常に高い |
FKM | 限定的 | 非常に高い |
FFKM | グレードによる | 最高水準 |
TPU | 良好 | 限定的~中程度 |
実際の使用温度は配合および使用流体によって異なるため、供給メーカーのデータを適用する必要がある。
22.2 熱老化
高温ではゴムに次の変化が起こる場合がある。
硬化
軟化
亀裂
可塑剤損失
架橋切断
追加架橋
強度低下
圧縮永久ひずみ増加
NBRとNRは高温酸化によって硬化する傾向があり、一部のポリウレタンは熱と水分によって軟化または分解する場合がある。
22.3 自己発熱
繰返し変形時には、分子内部のヒステリシスによって熱が発生する。
自己発熱が重要な部品:
タイヤ
高速ローラー
ベルト
カップリング
防振マウント
往復動ダイヤフラム
熱が蓄積すると、次の問題が発生する。
強度低下
劣化促進
架橋構造破壊
接着層損傷
疲労寿命低下
23. 流体および薬品との適合性
23.1 膨潤
ゴムが流体を吸収すると、体積が増加する。
膨潤による影響:
硬度低下
強度低下
寸法増加
シール圧縮率の変化
摩擦増加
組立部の干渉
押出損傷
一部の流体は、ゴム中の可塑剤を抽出し、収縮と硬化を引き起こす場合もある。
23.2 極性と相溶性
一般に、極性が似た物質同士は互いに溶解または膨潤しやすい傾向がある。
例:
非極性のNRおよびEPDMは、炭化水素系オイルで膨潤しやすい。
極性を持つNBRは鉱油には強いが、一部の極性溶剤には弱い場合がある。
高フッ素FKMおよびFFKMは多くの流体に対して安定している。
ただし、実際の相溶性は温度、添加剤、混合流体によって異なるため、極性だけで最終判断してはならない。
23.3 代表的な適合傾向
環境 | 一般に有利な材料 | 注意が必要な材料 |
|---|---|---|
鉱油・グリース | NBR、HNBR、FKM、PU | NR、SBR、EPDM |
燃料 | FKM、一部NBR・HNBR、ECO | EPDM、NR |
水・温水 | EPDM、シリコーン、一部FKM | 一般NBR、一部PU |
蒸気 | 過酸化物加硫EPDM、一部FFKM | NBR、一般FKM |
オゾン・屋外 | EPDM、CR、シリコーン、FKM | NR、SBR、NBR |
強酸・強アルカリ | EPDM、グレード別FKM・FFKM | NR、NBR、PU |
高温空気 | シリコーン、FKM、FFKM、HNBR | NR、SBR |
高摩耗 | PU、HNBR、NR | シリコーン、一部FFKM |
24. シール設計における考慮事項
24.1 圧縮率
ゴムシールは、適切な圧縮変形によって接触圧力を形成する。
圧縮が不足すると:
漏れ
組立公差への敏感性増加
低圧密封の失敗
圧縮が過大になると:
摩擦増加
組立損傷
圧縮永久ひずみ増加
シール寿命低下
溝外への押出し
24.2 伸張率
Oリングを軸や溝に取り付ける際に過度に伸ばすと、断面積が減少し、接触圧力が変化する。
確認項目:
取付け伸張率
断面減少
温度変化
ゴム膨潤
組付け時のねじれ
24.3 押出しすきま
高圧下では、ゴムが金属すきまへ押し込まれて破損する場合がある。
対策:
硬度を高める。
すきまを小さくする。
バックアップリングを使用する。
圧力差を段階的に低減する。
高強度材料を使用する。
温度と膨潤を考慮する。
24.4 動的シールの摩擦
動的シールでは、次の項目を確認する。
起動摩擦
走行摩擦
潤滑
表面粗さ
偏心
速度
発熱
スティックスリップ
摩耗粉
相手材コーティング
25. 防振および振動絶縁設計
ゴム防振材は、ばねとダンパーの役割を同時に果たす。
検討項目:
静的荷重
動的剛性
固有振動数
加振周波数
損失係数
温度
圧縮方向とせん断方向
長期クリープ
オイルおよびオゾン暴露
ゴムの動的剛性は静的剛性と異なる場合があり、周波数および温度によって変化する。
防振ゴムでは、高い弾性と耐疲労性を持つNRが広く使用される。屋外環境や高温環境では、EPDMまたはCRが使用される場合がある。
26. 食品機械におけるゴム材料
26.1 一般的に使用される材料
EPDM
シリコーンゴム
FKM
NBR
HNBR
PTFE複合シール
TPU
食品接触用天然ゴム
材料名だけで食品適合性を判断してはならない。
次の成分についても、すべて適合性を確認する必要がある。
カーボンブラック
顔料
可塑剤
酸化防止剤
加硫促進剤
離型剤
充填材
硬化副生成物
接着剤
26.2 EPDM
適した環境:
水
温水
蒸気
酸・アルカリ洗浄
屋外暴露
注意事項:
食用油および潤滑油
脂肪性食品
炭化水素系洗浄剤
26.3 シリコーンゴム
適した環境:
高温
低温
衛生ホース
食品接触
オーブンおよび加熱設備
透明シール
注意事項:
引裂
摩耗
高圧
オイル
ガス透過
鋭利な溝
白金硬化シリコーンは、低抽出物と衛生性が重要な用途に有利である。
26.4 NBRおよびHNBR
適した環境:
食用油
グリース
潤滑油
一部の脂肪性食品
注意事項:
高温蒸気
オゾン
強酸化性洗浄剤
実際の食品接触認証
26.5 FKM
適した環境:
高温オイル
脂肪
燃料
一部の強力な洗浄剤
高温
注意事項:
蒸気および温水には専用グレードが必要。
低温性能
アミン系洗浄剤
コスト
食品接触用コンパウンドの確認
26.6 金属検出可能ゴム
食品機械では、破損したシール片を検出するために、金属検出可能またはX線検出可能なゴムを使用することがある。
一般的な構成:
EPDM、シリコーン、NBRなどのベースゴム
金属または高密度無機検出添加剤
青色顔料
補強材および安定剤
注意事項:
検出性は破片の大きさに左右される。
添加剤は引裂強さと圧縮永久ひずみに影響を与える場合がある。
実際の検出装置で試験する必要がある。
食品接触適合性を確認する必要がある。
27. 代表的な材料の特性比較
材料 | 耐油性 | 耐候性 | 耐熱性 | 低温性 | 耐摩耗性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|
NR | 低い | 低い | 低い | 良好 | 優秀 | 防振、ベルト |
SBR | 低い | 低い | 低い | 普通 | 良好 | 一般ゴム部品 |
BR | 低い | 低い | 低い | 非常に優秀 | 優秀 | タイヤ、高反発部品 |
NBR | 優秀 | 低い | 中程度 | グレードによる | 優秀 | オイルシール |
HNBR | 優秀 | 優秀 | 高い | 良好 | 非常に優秀 | 高温・高圧シール |
EPDM | 非常に低い | 非常に優秀 | 高い | 優秀 | 普通 | 水・蒸気シール |
CR | 中程度 | 優秀 | 中程度 | 普通 | 良好 | 難燃ホース |
IIR | 低い | 優秀 | 中程度 | 良好 | 普通 | 気密部品 |
VMQ | 限定的 | 非常に優秀 | 非常に高い | 非常に優秀 | 低い | 高温・食品用シール |
FKM | 非常に優秀 | 非常に優秀 | 非常に高い | 限定的 | 良好 | 燃料・高温シール |
FFKM | 最高水準 | 非常に優秀 | 最高水準 | グレードによる | 普通 | 極限化学シール |
ACM | 優秀 | 優秀 | 高い | 限定的 | 良好 | 高温オイルシール |
PU | 優秀 | グレードによる | 中程度 | 良好 | 非常に優秀 | ローラー・油圧シール |
TPV | 低い | 非常に優秀 | 中~高 | 良好 | 普通 | 射出成形シール |
TPU | 良好 | グレードによる | 中程度 | 良好 | 非常に優秀 | ベルト・ホース |
28. 部品別の材料選定
28.1 オイルシール
推奨材料:
NBR
HNBR
FKM
ACM
選定基準:
一般鉱油:NBR
高温・高圧:HNBR
高温オイル・燃料:FKM
自動車用高温潤滑油:ACM
28.2 水および蒸気用ガスケット
推奨材料:
EPDM
過酸化物加硫EPDM
シリコーン
専用FFKMグレード
選定基準:
一般水・温水:EPDM
高温蒸気:専用EPDM
衛生性と広い温度範囲:シリコーン
極限薬品と蒸気:専用FFKM
28.3 防振マウント
推奨材料:
NR
CR
EPDM
IIR
選定基準:
高い弾性と疲労性:NR
屋外環境と難燃性:CR
耐候性と耐熱性:EPDM
高い減衰性と気密性:IIR
28.4 高摩耗ローラー
推奨材料:
ポリウレタン
HNBR
NR
NBR
選定基準:
最高水準の耐摩耗性:PU
オイルと高温:HNBR
高弾性と衝撃:NR
オイル環境:NBR
28.5 化学設備用Oリング
推奨材料:
FKM
FFKM
EPDM
PTFE複合シール
流体の種類と温度に基づいて選定する必要があり、「耐薬品性に優れる」という一般的な説明だけで決定してはならない。
29. 図面および仕様書への表記方法
単に「ゴム」「NBR」「シリコーン」とだけ表記するのは十分ではない。
次の項目をあわせて指定する必要がある。
29.1 基本材料
例:
NBR
HNBR
EPDM
VMQ
FKM
TPU
29.2 硬度
例:
NBR 70 Shore A
EPDM 60 ±5 Shore A
Silicone 50 Shore A
硬度測定方法と許容差もあわせて指定することが望ましい。
29.3 色
例:
Black
White
Blue
Translucent
色は顔料だけでなく、カーボンブラック含有量や検出性にも影響する場合がある。
29.4 加硫方式
必要に応じて指定する。
Sulfur cured
Peroxide cured
Platinum cured
Bisphenol cured
Amine cured
29.5 食品・医療適合性
例:
食品接触適合グレード
飲料水適合グレード
低抽出物グレード
医療用グレード
金属検出可能グレード
適合性は完成コンパウンドを基準として確認する必要がある。
29.6 要求物性
引張強さ
伸び
引裂強さ
圧縮永久ひずみ
耐熱老化性
体積変化
硬度変化
低温性
耐オゾン性
接着強度
電気抵抗
29.7 使用環境
図面または購入仕様書には、次の項目を記載することが望ましい。
使用流体
流体濃度
連続使用温度
最高温度
圧力
静的または動的使用
洗浄方法
蒸気の有無
紫外線暴露
期待寿命
30. ゴム材料の選定手順
30.1 シールまたは弾性機能の確認
静的シールか。
往復動シールか。
回転シールか。
防振部品か。
衝撃吸収部品か。
ローラーまたはベルトか。
ホースか。
30.2 流体の確認
水
蒸気
鉱油
合成油
グリース
燃料
酸
アルカリ
洗浄剤
溶剤
食品
医薬品
30.3 温度の確認
最低温度
連続使用温度
短時間最高温度
熱サイクル
殺菌および洗浄温度
摩擦発熱
30.4 機械的条件の確認
圧力
圧縮率
繰返し変形
速度
摩擦
押出しすきま
衝撃
振動
締付け力
30.5 長期特性の確認
圧縮永久ひずみ
応力緩和
クリープ
熱老化
オゾン亀裂
疲労亀裂
可塑剤抽出
流体膨潤
30.6 製造条件の確認
圧縮成形
トランスファー成形
射出成形
押出成形
カレンダー成形
注型ウレタン
二色成形
接着
ゴム–金属加硫接着
30.7 規制と安全性の確認
食品接触
医療用途
難燃性
有害物質
燃焼ガス
アレルギー
抽出物
リサイクル性
作業者暴露
31. 最終まとめ
ゴムおよび弾性材料は、単に柔らかく伸びる材料ではない。
実際の性能は、次の要素の組合せによって決定される。
ベースゴムの分子構造
共重合モノマーの種類と比率
加硫方式
架橋密度
カーボンブラックおよびシリカの種類と含有量
可塑剤
充填材
酸化防止剤
オゾン劣化防止剤
硬化条件
後加硫
使用温度
流体および薬品環境
長期圧縮および繰返し変形
NRは、cis-1,4-ポリイソプレン構造によって高い弾性、引張強さおよび疲労特性を持つ。
SBRは、スチレンとブタジエンの組合せによって、耐摩耗性と経済性を確保する。
BRは、低いガラス転移温度と高い反発弾性を利用して、低温および動的部品に使用される。
NBRは、アクリロニトリル含有量によって、耐油性と低温柔軟性のバランスが変化する。
HNBRは、NBRの不飽和結合を水素化することで、耐熱性、耐オゾン性および機械的耐久性を向上させた材料である。
EPDMは、エチレン、プロピレン、ジエンの組成によって、水、蒸気、オゾンおよび屋外環境で優れた性能を提供する。
CRは塩素を含むため、難燃性、耐候性および中程度の耐油性を持つ。
IIRは高いイソブチレン含有量によって、非常に低いガス透過性と優れた減衰性を持つ。
シリコーンゴムは、ケイ素–酸素主鎖によって非常に広い温度範囲と優れた耐候性を持つが、引裂および摩耗には注意が必要である。
FKMとFFKMは、高いフッ素含有量によって、高温および薬品に対する高い耐性を持つ。ただし、正確な流体と温度に適したグレードを選定する必要がある。
ポリウレタンは、ハードセグメントとソフトセグメントの組合せによって、高い強度、引裂性および耐摩耗性を提供する。
TPEは、ゴム弾性と熱可塑性加工性を組み合わせた材料であるが、長期高温クリープおよび圧縮永久ひずみを確認する必要がある。
したがって、ゴム材料を選定する際は、「NBR」「EPDM」「シリコーン」といった一般的な材料名だけで判断してはならない。
次の項目をあわせて指定し、確認する必要がある。
ベースゴム
共重合組成
硬度
加硫方式
充填材と可塑剤
使用流体
使用温度
圧力とひずみ
圧縮永久ひずみ
耐熱老化性
流体膨潤
食品・医療・環境適合性
供給メーカーのコンパウンドグレード
ゴムおよび弾性材料の選定は、単に柔らかい材料を選ぶ作業ではない。
シール、振動、摩擦、温度、流体および要求寿命に応じて、適切な分子構造と配合組成を選択する設計プロセスである。